ciiron TOKYO
Interview 
2025.05.29

犬とわたし

#003 石野卓球と愛犬サル・ゲンキ

Photo: Kyohei Hattori /Interview: Maki Kakimoto (Lita) /Hair: Ryosuke Sakai (OFF)

/Stylist: So Matsukawa

人と人とはまた少し違った絆が生まれ育っていく、人間と犬。
犬と過ごして、変わったこと。犬と過ごして、気づいたこと。
それは誰にしもあるはず。
犬とわたしだけの物語。
第3回は、「電気グルーヴ」石野卓球さん。

Interview #003

石野卓球と愛犬サル・ゲンキ

向かって左がトイプードルのサル、右がゲンキ(ゲンゲン)
(サル着用)ハーネス Lemon Mサイズ/(ゲンキ着用)ハーネス Serene Mサイズ

「お恥ずかしながら、何の否定もできません(笑) 客観的に自分を見た時に恥ずかしくなるくらい、サルとゲンゲンを溺愛しています」
世界のクラブシーンを魅了し続けるテクノDJであり、電気グルーヴのメンバー、石野卓球さん。2024年に圧倒的人気を博したNetflixドラマ「地面師たち」で初めて手掛けた劇伴も話題。自身のInstagramには溺愛しているという愛犬たちがたびたび登場。「家に早く帰りたい。生活全てが変わりました」と即答するほど、彼を変えたサルちゃんとゲンキくんについてお話をお聞きしました。
――石野卓球さんは幼少期に犬を飼っていたことはありますか?

おばあさんがパン屋をやっていまして、犬を飼いたかったけれど許してもらえなかったんです。僕が上京した後、そのパン屋を廃業。そして妹が家を出るタイミングで保護犬をもらってきたんです。家に残される老人たちのために。静岡県の葵区でもらってきた犬だから、“あおちゃん”。その子に会うために里帰りしてました。17歳くらいまで生きてくれたので、5年前までは生きていたんです。

――犬と暮らすことを選択したきっかけは何でしたか?

母親とあおちゃんで2人暮らししていたんですけど、あおちゃんが亡くなってしまって母親がすごく落ち込んでいたんです。心配だから会いに行こうとしたら、その時がコロナ禍だったので断られてしまって。でもやっぱり心配だから内緒で会いに行ってみたんです。そしたらちょうどあおちゃんの遺品整理をしている時で、寂しいと言って落ち込んでいる母親の姿を実際に見たら、これはほうっておけないぞと。ちょうど犬飼いたいねという話をかみさんとしていて、トイプードルの兄弟2頭に出会ったのですぐに飼おうと決めました。母親は年齢的にも今から飼って最後まで看取るのは無理だろうし、あくまでも2頭とも自分たちの犬で1頭を預かってもらえないかなとお願いする形で半ば強引に母親のもとに押し付けたんです。年齢的に大変だとか色々言って嫌がったんですけど、とてもじゃないけどペットロスで落ち込む姿が見てられなかったので。

――預かってもらうという形で始まったお母さんと新しいプードルの暮らし。石野さんから見てどうでしたか?

預けた日からお互いの犬報告をしていたのですが、みるみるうちに元気になっていきました。それから1年後に母親は亡くなっちゃうんですけど、生涯で1番母親と密に連絡をとった1年でしたね。「お母さんが名前つけていいよ」と言ったら、この子のおかげで元気になったから「ゲンキ」って名前にしようと思うと言って名前が決まりました。俺とかみさんはゲンゲンって呼んでます。うちの子は「サル」。子犬の時に顔が猿に似ていたんです(笑)

――お母さまが亡くなって、「ゲンキ」くんも石野家へ。姉弟とはいえ1年ブランクがありますが、2人の仲はどうでしたか?

ものすごく仲が悪いんですよ(笑) 子犬時代に育った環境が全く違うので。うちには友達が遊びに来たり散歩にもしょっちゅう出ていたので、サルは人や犬に慣れてる。でも母親と暮らしていたゲンキは、コロナ禍ということもあり、犬や人に慣れていなくて犬の社会性みたいなものが身についていなかったんです。性格が全く逆なんですよね。

育った環境の違いもあり、正反対の2頭。
都会育ちのずる賢いサルと、田舎育ちのちょっと間抜けなゲンキ。

――性格が逆というと、例えばどんなところですか?

たくさんありますよ。例えば、サルちゃんはスナックみたいなものが好きだったりするんですけど、ゲンゲン(ゲンキくんの愛称)はおばあちゃんに育てられたから、蒸した芋とかが好きなんですよね(笑) 老人食(笑)
東京にゲンゲンを連れてきて一緒に暮らすことになって、彼らの立場ははっきりと明確なんです。サルの先住犬プライドが強く、ゲンゲンも自分の方が下だって分かっているみたい。俺が目を離している時に、サルの方がワンワン吠えていて、1日のうちにそれが何回か起きたので、なんで吠えているのかこっそり見守っていたら、 ゲンゲンが見ている っていうだけでサルから吠えられていました(笑) おやつとかあげるとサルの方が先に食べ終わっちゃうのですが、ゆっくり食べているゲンゲンのおやつを見ながら「クゥーン」とかまるで被害者みたいな声出したり(笑) ねぇ〜この状況どう?みたいに切ない声出すんですよ。
あと、ベッドで寝る時、かみさんが抱っこして胸の上で撫でることを「スンする」って我が家では言うのですが、ゲンゲンが先に来てスンしていると、そこにサルが割り込もうとしても体がサルの方が小さいから勝てるわけがない。そういう時、サルは「あそこにあるあのぬいぐるみとって〜」みたいに被害者声の切ない声を出すんです。それで俺がぬいぐるみを取ってあげると、スン中だったゲンゲンが「ぬいぐるみだ」と反応して興奮して去って行っちゃって。そうすると、サルがベストなポジションでスンしてもらうんです。ぬいぐるみなんか欲しくないくせに、ベスポジ狙いで被害者声出すんですよね(笑) そういう都会育ちらしいずる賢さがまた可愛いんですけどね。

ベスポジ狙い、被害者声容疑のサルくん

――なんて賢い(笑) 元々の性格があるところに育つ環境も違うので、正反対なんですね。

しつけみたいなことをお母さんがあまりしてこなかったから、ゲンゲンは吠えまくってます。でも食べ物には卑しくない感じとか、人を騙しちゃいけないとか、最低限の人としてのマナーみたいなものはきちんと持っているんですよ。おばあちゃんに育てられたから。人間の子どもで言うと、サルはゲームが好きな子、ゲンゲンは竹とんぼとかでんでん太鼓、ヤジロベエとかで遊んでいる子って感じですかね。

――石野さんが思わず爆笑してしまった愛犬たちの行動やエピソードを教えてください。

ゲンゲンの素朴育ちゆえのケアレスミスですかね。散歩中に毬栗いがぐり踏んで飛び上がったり、草が生えて一見分かりづらい沼地にはまったり、そういうことが多いです(笑)
ゲンゲンはマーキングを知らなかったんですよね。うちが引き取って散歩している時、サルが電柱とかにおしっこする姿を見て真似するように。でもマーキングの意味はわかっていないから、サルがおしっこしたところにしかしないんです。それでサルちゃんがまだおしっこしているところに、自分も真似しようと頭を突っ込んでおしっこでビショビショになったりして(笑) 間抜けな感じが可愛いんですよ。でもそこに田舎者ならではの図々しさみたいなものもちゃんとあって、おもちゃを投げると2頭が一斉に取りに行くんですけど、体の大きいオスのゲンゲンが必ず勝っちゃう。そういう時は、普段の慎ましさとかお姉さんへのリスペクトとかなんて一切なくて、獣の瞬間になるんですよ。サルに体当たりしたりとか(笑)

間抜けな感じと獣の瞬間もある二面性がかわいいゲンキくん

「DJ後は早く家に帰りたい」。
犬たちの生活リズムに合わせ、朝昼晩の散歩は欠かさない。

――犬と暮らし始めたことで、石野さんご自身の1番の変化とは?

家に早く帰りたい。DJで地方に行くことが多いんですけど、オールナイトでDJしてそのまま始発の新幹線乗って帰ってきたりしてますね。どうしても不規則な生活になってはしまうのですが、どんなに遅く帰ることになっても、朝昼晩の散歩は欠かさないようにしています。彼らのリズムに合わせざるを得ないというか、もはや合わせる快感があって。あと、合わせられなかった時の罪悪感もあるんです。二日酔いなんて、犬からしたら知らない話じゃないですか。それなのに添い寝してくれて、酒臭い息で「ありがとう」って言ってくっついて寝ています。

――愛犬と過ごす時間の中で、ご自身の作品に影響を与えることはありましたか?

具体的に影響はないとは思うのですが、犬を飼う前から電気グルーヴのライブでは犬の声をよく使っていたんですよ。中型犬か大型犬くらいの声なんですけど。
犬がわんわんと騒ぐとなんか気持ちが上がるというか、賑やかな感じがするので随分前から使っていますね。

愛犬の前で餌を食べるふりをしておどける卓球さんが素敵でした。

一「曲者くせもの!」と吠えられたりしながらも
溺愛は止まらず、これからも極力甘やかしていきたい。

――愛犬を溺愛するあまり、ご自身で「ちょっとやばいな」、と思う瞬間はありますか?溺愛は否定しないですよね?(笑)

お恥ずかしながら、何の否定もできません(笑) 客観的に自分を見た時に恥ずかしくなるくらい、溺愛しています。
元々ステッカー好きなのですが、愛犬ステッカーを作って、石鹸の箱、シャンプー、調味料とか全部に貼っています。もう調味料は、どれが何のか分かりづらくなっていて(笑) 大量に作って、自分の持ち物に貼りまくっています。

――溺愛をピエール瀧さんに突っ込まれることはありますか?

瀧も猫3匹飼って溺愛しているんです。こちらに突っ込んだところで、自分が突っ込まれるだけという(笑)

――ここまで犬好きになるとは予想はしていましたか?

ある程度予想はしていたんですけど、ここまでだとは思わなかったですね。やっぱり想像と実際に経験するのは違う。正直言うと昔は、犬に服着せているのとか正気かよって思っていたんですよ。でも今は、犬を飼っていて服を着せないのとか正気かよって思っています(笑)

――サルちゃん、ゲンキ君の石野家での序列はありますか?

2人ともかみさんが1番ですね。ゲンゲンは俺が一番下だと思っていると思います。寝室でみんなで寝ていて、夜中に俺がトイレに行って部屋に戻ってくると100% 吠えられるんです。かみさんを守ろうとして、「曲者くせもの!!」みたいな感じで(笑)
サルは俺のことを下には見てないと思います。まぁ対等かな。

向かって左がサル、右がゲンゲンこと、ゲンキ

――愛犬たちと今後挑戦してみたいことはありますか?

うちは車がないので遠くに行くということがあまりできないんです。でも飛行機に乗せるのは可哀想なので、極力陸路で行ける場所まで一緒に行きたいなという気持ちがあります。静岡にはたまに帰るんですけど、他にいいところがあればいいなぁと。
犬の満足を中心に考えていきたいなと思っています。人間の満足を先にすると、犬に良かれと思ってしたことも全然喜ばなかったりするんですよ。ドッグラン連れていったら全然走らなかったりとかね…何回か連れて行ったんですけど、ゲンゲンが他の犬に吠えちゃうんです。

――犬と暮らすことの醍醐味、幸せとは何でしょう?

ベッドで寝ている時に2頭がそばにいることの喜びですね。一緒に寝るのは良くないと聞いて、うちに来た初日はリビングに置いたケージの中に入れて別々に寝たんですけど、悲しそうに泣いている声が可哀想で1時間ももたなくて、すぐベッドに連れてきちゃいました(笑) あとは、懐いてくれているという安心感、喜びですかね。
無責任だけど、サルとゲンゲンより先に死にたいなんて思ったりもします。もし彼らが亡くなってしまったら、年齢的にもう1度犬を飼うことはないと思うので、極力甘やかしたい! でも甘やかすって健康に良くないことだったり、あからさまに人間の言うこと聞かなくなったりするから、その塩梅が難しいです。叱るとしゅんとして、その姿を見て罪悪感を感じるというこの心理戦をうまく越えながら(笑)、極力甘やかしていきたいですね。

石野卓球(いしの たっきゅう)

1989年にピエール瀧らと結成した “電気グルーヴ” としての活動の一方で、1995年に初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃より本格的に DJ としての活動もスタート。1998年にはベルリン開催の世界最大級テクノフェス「Love Parade」にて150万人の前でプレイ。1999年〜2013年には日本最大の大型屋内レイヴ「WIRE」を主宰し精力的に海外アーティストを日本に紹介。多数のシングルや、それらをまとめたアルバム等をリリースしてきており、2015年には New Order のアルバム『Music Complete』からのシングルカット曲「Tutti Frutti」のリミックスを日本人で唯一担当。DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩に活動する、日本を代表するテクノアーティスト。
最近では、大ヒット Netflix ドラマ「地面師たち」にてキャリア初の劇中伴奏音楽を担当、同ドラマにはピエール瀧が俳優として出演、更に過去に電気グルーヴのメンバーだった “まりん” こと砂原良徳がマスタリングを手掛け大きな話題となった。

電気グルーヴ OFFICIAL HP : https://www.denkigroove.com/

石野卓球(いしの たっきゅう)

1989年にピエール瀧らと結成した “電気グルーヴ” としての活動の一方で、1995年に初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃より本格的に DJ としての活動もスタート。1998年にはベルリン開催の世界最大級テクノフェス「Love Parade」にて150万人の前でプレイ。1999年〜2013年には日本最大の大型屋内レイヴ「WIRE」を主宰し精力的に海外アーティストを日本に紹介。多数のシングルや、それらをまとめたアルバム等をリリースしてきており、2015年には New Order のアルバム『Music Complete』からのシングルカット曲「Tutti Frutti」のリミックスを日本人で唯一担当。DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩に活動する、日本を代表するテクノアーティスト。
最近では、大ヒット Netflix ドラマ「地面師たち」にてキャリア初の劇中伴奏音楽を担当、同ドラマにはピエール瀧が俳優として出演、更に過去に電気グルーヴのメンバーだった “まりん” こと砂原良徳がマスタリングを手掛け大きな話題となった。

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