Photo: Kyohei Hattori /Interview: Maki Kakimoto (Lita) /Hair Make: Aiko Tokashiki /Stylist: Maki Yanagita
ciiron TOKYO
Interview
2024.10.02
犬とわたし
#002 二階堂ふみと愛犬ジジ・ゾイ
人と人とはまた少し違った絆が生まれ育っていく、人間と犬。
犬と過ごして、変わったこと。犬と過ごして、気づいたこと。
それは誰にしもあるはず。
犬とわたしだけの物語。
第2回は、二階堂ふみさん。
Interview #002
二階堂ふみと愛犬 ジジ・ゾイ
左から柴犬のジジ、ジャックラッセルテリアのゾイ
「人はみんな違うので、“それぞれが幸せであるための選択を、それぞれのやり方で探していく”と考えられるといいなと願っています。」
保護犬をはじめ、たくさんの動物と暮らしている二階堂ふみさん。動物と暮らすことで、「アニマルライツ」「アニマルウェルフェア」に強く関心を持つように。それがキッカケとなり、環境、食、暮らし方、ファッションなど全ての“選択”について改めて考え向き合うようになったそう。彼女が向き合う“選択”について、お聞きしました。
動物と暮らすことで、感じたこと。
それによって選択について改めて考え、優先順位が変わった。
――二階堂さんはどんなキッカケで動物と暮らし始めましたか?
初めて動物とご縁があったのはフェレットで、22,3歳の頃です。
一緒に暮らして驚いたのは、こんなにも感情豊かなんだなということ。すごく賢いし、ワッ!通じ合えていると感じました。
――動物と暮らすことで、二階堂さんにどんな変化がありましたか?
人生で1番変化をもたらした出来事だと思います。
生きる上での優先順位が変わり、自分が何を選択するのかということを改めて考え、生活スタイルから食事まで全て変わりました。
そして、動物と暮らすようになって、自分が搾取する側としてずっと生きてきたんだなということを、動物の権利や問題を通して感じました。アニマルライツ、アニマルウェルフェアだけじゃなく、ヒューマンライツについても考えるように。
動物を好きになり、身近な犬猫だけじゃなく、畜産動物と言われる生き物の環境、野生動物の問題に関しても学びたいという気持ちが湧き、そうすると環境問題にも繋がって、意識を持つようになりました。
自分のちょっとした選択ひとつが、色々な被害に連鎖しているのかもしれないと感じるようになりましたし、そういった学びのきっかけになった我が家の子達には、すごく感謝しています。
――フェレットの次に迎えたというジジちゃんとはどんな出会いだったのでしょうか?
ジジはペットショップで売れ残り、どんどん大きくなっていきながら値段が安くなっていっていて…ご飯の買い出しに行くたびにその光景が目に入り、耐えきれなくなって家族に迎えました。かわいい家族が増えたという気持ちと、命の売買に加担してしまったという気持ちと両方がありました。
――ペットショップでのそういった光景を目にした人は少なくないと思います。
元々ペットショップという存在は好きではないです。動物と暮らし始め、それがおかしな光景だとさらに強く感じるようになりました。海外では店頭販売はほとんどないですし、その光景が日常化していた動物と暮らす前の自分のことも怖いと思いました 。次にもしもまた家族を迎えるなら、命にお金を払って迎えるということは避けたいと思い、次に迎えたゾイは保護犬です。
元々繁殖犬だったゾイちゃんとの出会い。
動物の回復力、逞しさに触れ、勇気をもらう。
――ゾイちゃんは保護犬とのことですが、初めて二階堂さんの家に来たときはどんな様子でしたか?
ゾイは元々繁殖犬でした。ガリガリで筋肉があまりにもなくて、歯茎は腫れて歯はボロボロ。病院で血液検査をしたら、炎症の数値がとても高かったので、奥歯だけ残してほとんどの歯を抜きました。マーキングとしての粗相グセがすごく、ジジのご飯まで奪おうとしたりと食への執着がとても貪欲。おもちゃで遊んだことがなかったので音に過剰に反応してパニックになったりもして。けれどわりと早い段階で私には慣れてくれたと思います。すっかりママっ子になってしまいました(笑)
――そういった繁殖犬として育ってきたことによる反応や癖などは徐々に変わっていくのでしょうか?
ガリガリの身体や薄かった毛などはすっかり健康的にはなりましたが、ゾイは今でも上から触られるのは苦手ですし、音には敏感です。けれど、ゾイは“可哀想”ではなく、“逞しい”と感じます。だって、めちゃくちゃ図々しいんですよ(笑)
ジジを撫でていると突っ込んできたり、人のおやつを奪おうとしたり、後から家族になった猫たちに当たりが強かったり(笑) そういうすごく図々しくて逞しい姿に勇気をもらっています。
――なんて図々しくて逞しい! そういった姿を近くで見ていると、たしかに力をもらえそうです。
人は傷を負ったことに対して怖くなってしまって、ちょっとした一歩も踏み出せなくなったりするけれど、動物の回復力ってすごいなぁと思います。あんなに震えていて、人を信用できなかった子が、お散歩や遊ぶことを好きになるんです。口の中がボロボロで身体はガリガリでも元気に長生きしてる。日々、強さを見せてもらっています。
あんなにも食に貪欲だったゾイが、今となっては、好きなカリカリと嫌いなカリカリがあって、食べたくないものは頑なに食べないですし(笑)
家に来て2、3ヶ月の頃、小さなドッグランでジジにおもちゃを投げていたら、初めてゾイもそれを取りに行って持ってきたんです。その時は思わず号泣してしまいました。
逞しさ、したたかさ、余計なことは考えないというところが犬や猫は格好良いなと思います。
先住犬ジジとゾイの関係は、
犬たちにある程度任せる。
言葉を持たない犬とのコミュニケーションは
“信じること”。
――ゾイちゃんが家にやってきて、先住犬のジジちゃんはどんな反応でしたか? 2頭目を迎える時、やはり誰しもそこが気になると思うんです。
やはり最初は喧嘩していました。ジジからすると自分のテリトリーに入ってきたゾイのことは嫌だったと思います。でも、もう犬たちに任せようと思って! 順位はそちらでつけてください〜と、一応間に入れるところは入ったりしつつも委ねるようにしていました。けれど1週間くらいすると、一緒に寝るようになったりして。ゾイは全部ジジの真似をするんです。今ではゾイはジジがいないと不安な様子。ジジの方が先住ですし、ゾイにとってもお姉ちゃんみたいな感じなので、おやつなども全てジジからあげるようにしていました。ジジは本当に穏やかで人や犬に対してとても友好的なので、助けてもらっています。
――たしかにジジちゃんとゾイちゃんの関係性は、ある程度は人が間に入りつつも自分たちで築いてもらうしかないですよね。言葉というツールがない動物たちとのコミュニケーション。そこで大切にしていることとは?
犬という生き物、その犬種についての基礎知識はもちろんつけた上で、個体を個体として考えないといけないなぁと思います。犬はこうだから、この犬種はこうだからと思い込まないようにすることが大切なんじゃないかなぁと。
お散歩が大好きな子がいれば、遊ぶのがそこまで好きじゃない子だっている。個体差があるということを、コミュニケーションとる時にも念頭に置くようにしています。
そして、言葉がどうこうとかではなく、家にいる時とか普通に話しかけちゃいます。
携帯ない時に「携帯ないから探して〜〜」とか(笑)
もう一つは、信じることを大事にしています。うちの子はこれが出来ないなとか思わないで、こういう時はこうしていてくれたら嬉しいなぁと思う時など、信じているとちゃんとそうしてくれます。
犬とのコミュニケーションは、まず信じることから始めるんだなと思いました。
動物は話せないので、人が勝手に想像して、エゴを押し付けてしまったり、動物に関する活動がアイデンティになってしまうことなどは怖いことだと思います。
私は色々なことで自分が苦しいってなっていた時期に、ご縁があって生き物と住み始めて、その後ジジやゾイがうちに来たことは、私を救いに来てくれたんだなって思うんです。色々なことを気づかせに来てくれました。助けに来てくれたわけだから、動物たちに対して恩返ししなきゃいけないなぁって思っています。
一時預かりボランティアによって改めて思う
「どんな子も同じ命」。そして、まず知ると言うことが大事。
――犬2頭、猫4匹、スケジュールに余裕がある時は一時預かりのボランティアもしてらっしゃるんですよね? 一時預かりのことを詳しく教えて欲しいです。
やり取りしているボランティアさんが何人かいるんです。1回目の一時預かりは、栃木からの2頭。コロナ禍で譲渡会が出来ず保健所がパンパンになってしまい、大型犬と中型犬を預かれるところを探しているということだったので、うちで預かりますと手を挙げました。雑種の中型犬の子と山に放棄されていた秋田犬の2頭。どちらもずっと外にいた子達だから、最初は家にいることに不慣れな様子でした。かなり体力のある子達だったので、毎朝毎晩2時間歩き続けたりして。ヘトヘトだったのですが、散歩途中でペットボトルをガリッと噛んで中のものを飲もうとする姿を見た時、きっと山にいるときにはこうして水分をとって生きてきたんだなと過去の様子が見え隠れして、幸せになろうね!!という気持ちを強く持ちました。
2回目に預かった山口県の野犬の子は特に人間に対する警戒心が強くて、3日経ってちょっと小指が触れて、1週間経ってハーネスを外すことが出来、2週間経つと身体を拭けるようになり、1ヶ月経ってようやく手からおやつを食べてくれました。ちょっとずつ慣れていってくれる様子は逞しく、とても嬉しかったです。
秋田犬の子は、知り合いが引き取ってくれて。みんな家族を見つけて幸せに暮らしています。
もちろん、子犬の頃から育てたいという気持ちは分からなくないけれど、シニア期もアダルト期の子も、出生地不明な子も、雑種の子も、みんな同じ命でそれぞれ個性がある。
もっともっと色々な個体の個性が受け入れられていくといいなと思っています。
――「どんな子もみんな同じ命。」当たり前とも言えるこの言葉を、誰もが頭の片隅にでもいいので置いておくといいですよね。とても大切で真っ当な感覚だと思います。こういった活動をしている上で、二階堂さんが意識していることはありますか?
犬や猫にまつわる問題はペットショップだけではなく、各地方で野犬野猫が増え、それによって生態系を崩す原因になっていたりもします。色々な問題があるので、一概にして、動物ファーストアニマルライツ大優先にすべきとは思いません。命に対する尊厳は持ちながら、安易な選択をせず、問題を多角的に捉える必要があると思います。
まず、知ると言うことが大事なのかなと。何かを否定するのではなく、リスクについて知るべきだと思います。
そして、誰もが自分の中の基準にグレーゾーンを設けていいと思っています。
こういった活動をしていると、様々な意見をいただくことがあります。例えば、「動物愛護の活動をしながらペットを飼うなんてエゴじゃないか」「リードをつけることが可哀想」など。それはもちろんそういう部分もあると思うんです。でもそれはしょうがない。そうやって社会の仕組みは出来てしまっているし、リードをつけなきゃ車に轢かれてしまう。「それなら自然の中で住めばいい」というご意見も出てきますが、私も仕事をしなくては生活ができないので、出来る限り一緒に暮らす動物たちがストレスのない生活を送れるよう努めたいと。
何事も極論にならないように意識することはとても重要だと思います。
極端にならず、グレーゾーンを持ちながら
もっと幅広く動物愛護を捉える。
――極端にならずグレーゾーンを持つこと。それはどんな活動においても大切な意識だと思います。グレーゾーンを持つということは常に考えている必要がある。だから何かの意見に傾倒する方が簡単でラクだと思いますが、考えることや知ること、様々な意見に耳を傾けること。それを続けていくことが大事ですよね。日本におけるペットと人との関係に対して、私たちが今できることは何だと考えますか?
やはりまずは、店頭販売をなくすことが第一歩じゃないかなと思います。社会が監視の目を光らせることが大事。
繁殖ばかりを続けていき、あんなにも店頭には動物が並んでいるのに、日本の賃貸の半分以上は動物禁止じゃないですか? 環境が整ってない中で、売り続けようとしていいはずがないんです。
基本的に世界には人間だけがいるのではないということを前提に、社会のシステムや街づくりを構築していかなければならないと思います。
動物を好きな人もいれば、好きじゃない人もいるのが当たり前。動物と暮らしている人はルールは守らなければいけないし、けれど動物と暮らしている人をマイノリティにしないということも重要だと思うんです。犬と人間ってすごく長い歴史で一緒に生きてきた仲間だから、もう少しその関係をリスペクトしてもいいのかなぁと。
結構極端に思われがちですが、動物の問題って根本は人の問題なんですよね。
人間と動物が対立したり区別したり、いることを許せないなどではなく、他の生き物がいるな〜というくらいの感覚でいられたらいいと思います。
そんなに愛護しなくてもいいから、いるということを認める。それが本来、一番いい関係性なのではないかと思っています。
何でもかんでも愛護するということだけが動物愛護ではなく、ディスタンスを作ることも実はまた大事なことなんだと思います。
――動物愛護の運動などに対してどこかハードルが高いと感じてしまい、興味はありつつも動けない人もいるかと思います。それはやはり、グレーゾーンが許されないんじゃないかと思ってしまうせいもあるかと。二階堂さんからアドバイスはありますか?
分からないことを分からないと認める怖さは、誰にでもあると思います。けれど、誰かを否定することで自分を肯定していくというやり方を見かけると、ちょっと寂しいし悲しいなと思います。
人はみんな違うので、“それぞれが幸せであるための選択を、それぞれのやり方で探していく”と考えられるといいなと願っています。
アニマルライツ、アニマルウェルフェアもヴィーガンじゃなきゃダメだとは私自身は思わないし、食肉を悪いことだとも思っていないんです。
お肉を食べていてもアニマウェルフェアに関心を寄せている人もたくさんいて、そういう選択や問題がある。そして、多くの恩恵を受けて我々は生きてきている。それらについて知ることは、ある意味私たちの義務なんじゃないかなと思っているだけなんです。
トラックジャケット ¥31,900/GREEN BUTTER (U by SPICK&SPAN ルミネ池袋店)/ ボトム ¥30,800/Madhappy
シューズ ¥12,650/LE TALON(ル タロン 有楽町マルイ店)/シャツ、その他全てスタイリスト私物
ハーネス リード(Grace) ciiron TOKYO
――●●であるべき!という考えが視野を狭くしていくのだと私も思います。恩恵を少なからず受けて生きているということを知ること。やはり、まずは“知ること”が大切なんですよね。
色々な問題は常に流動的なところにあって、日々世の中は変わっていく。
モラルや倫理は時代によって全然違うし、その時の流れや雰囲気みたいなもので決まっていってしまうものもあると思います。
そういったグレーゾーンの世界に自分たちが生きていることを自覚しながら、断定的にならないでいることは、難しいし苦しいことだとは思うんです。
でも、問題解決ってなかなかすぐにできるものではないと思っています。
時間をかけて、解決できなくても “今よりも良くする” ことが大切。
不幸せな個体の数を減らすという努力を、みんながちょっとずつでもできたら、それだけでいい社会になっていくはずだと思うんです。
“動物と人間” がそういう関係性になっていくといいなと思います。
家族として迎えること、
今の状況では迎えられないと選択すること
どちらの選択も動物愛護だと思う。
――これから保護犬を家族に迎えるという選択肢を検討されている方に、メッセージをお願いします。
ものすごく幸せですよ。
幸せをたくさんもらえるから、もし新しい家族を迎えたいと真剣に思っている人は、家族を必要としている子はたくさんいるので、ぜひ迎えてくれたらいいなと思います。
また、今はまだ家族に迎えることができないという選択も、それもまた立派な動物愛護だと思っています。なぜなら、今の状況では迎えることができない、命の責任を持つことができないという選択をするということは、真摯に考え向き合っているということ。だからこそ、その選択もまた立派な愛護活動なんです。
保護犬を迎える際に気をつけてもらいたいことは、まずトライアル期間が重要だと思います。そして保護犬を迎える団体のことをきちんと調べてから判断して欲しいです。
もし迎える準備ができたら、命を買うのではなく家族を必要としている子たちへのセカンドチャンスという選択をしてもらえたら嬉しいなと思っています。
二階堂ふみ(にかいどう ふみ)
1994年、沖縄県出身。映画『ガマの油』(2009年)でスクリーンデビュー。その後も、映画『ヒミズ』(2012年)、『リバーズ・エッジ』(2018年)、『翔んで埼玉』(2019年)、ドラマ「エール」(2020)、『月』(2023年)、「EyeLoveYou」(2024)など。写真家としても活動。
2024年2月27日より配信されているハリウッド制作ドラマ『SHOGUN 将軍』にメインキャストの一人として出演している。
二階堂ふみ(にかいどう ふみ)
1994年、沖縄県出身。映画『ガマの油』(2009年)でスクリーンデビュー。その後も、映画『ヒミズ』(2012年)、『リバーズ・エッジ』(2018年)、『翔んで埼玉』(2019年)、ドラマ「エール」(2020)、『月』(2023年)、「EyeLoveYou」(2024)など。写真家としても活動。
2024年2月27日より配信されているハリウッド制作ドラマ『SHOGUN 将軍』にメインキャストの一人として出演している。