Photo: Kyohei Hattori /Interview: Maki Kakimoto (Lita) / Interview at: RIVIERA ZUSHI MARINA
ciiron TOKYO
Interview
2024.5.31
犬とわたし
#001 北野武 × 権蔵
人と人とはまた少し違った絆が生まれ育っていく、人間と犬。
犬と過ごして、変わったこと。犬と過ごして、気づいたこと。
それは誰にしもあるはず。
犬とわたしだけの物語。
第一回は、北野武さん。
Interview #001
北野武と愛犬・権蔵
「特別にいい暮らしはさせてないけど、嫌な思いもさせないようにしてるよ」
よく晴れた日、愛犬である権蔵くんと現れた北野武さん。権蔵くんとの生活にインスパイアされ、しがないフリーライターの則之と愛犬ゴンの暮らしを綴った小説『ゴンちゃん、またね。』を執筆したり、犬との暮らしは武さんに変化をもたらしている様子。権蔵くんについて話す言葉ひとつひとつには愛情が溢れ、時折優しく照れたように微笑む。「こいつはランク的には俺の上にいると思ってるからさ、俺の言うことはほとんど聞かないんだよ。舐め切っているよね(笑)」。そんな愛犬、“権蔵くん”の話。
権蔵くんを家に迎えることになったきっかけは、武さんの幼い頃の思い出にさかのぼる。
「実家の近くに煎餅屋があってね、俺が犬を好きなのを知っていて犬が生まれると必ずくれたんだよ。その煎餅屋から最初に犬をもらった時、親から “捨ててきなさい” って言われてね。遠くまで捨てに行ったら、俺が迷子になっちゃって(笑)。 結局、家に戻る犬の後をついていって無事に帰れたんだけど、その話をしたら、お袋が “なんて頭のいい犬だ” って泣きながら喜んで、それで飼えることになったんだ。柴犬の雑種でね、その後同じ犬種を3匹飼ったけど、毎回チビって名前をつけてたな。」
念願の犬を飼うことになった幼少期の武さん。犬は好きだったものの、当時の飼い方には心残りもある様子。「うちは貧乏だから、朝晩の残り物に味噌汁をかけたようなご飯しかあげていなかったし、散歩もせずに家の前の小屋に鎖で繋いで飼っていてね。親もペットの扱いなんて全然分かってないから、今思い返すと虐待に近いよね。」
“ちゃんと犬を飼えなかった”、幼少期のそんな心残りが、現在の愛犬・権蔵くんとの出会いに繋がったのは2016年のこと。知り合いの家に3匹の柴犬の兄弟が生まれたと聞いて、すぐに会いに行ったそう。「一番可愛いのは三男。しっかりしている長男。真ん中の子は一番人気がなかったから、その子をもらったんだ。いざ飼ってしまえばどの犬も可愛いものだよね。」
柴犬3兄弟。真ん中が権蔵くん。
こうして、北野家に迎えられた権蔵くん。頭の良い権蔵くんが巻き起こす、面白いエピソードの数々。あの ”世界の北野” が家ではNo.3!?
「権蔵は血統のいい犬だから誇り高い部分もあって媚を売らないし、自分勝手でね。そこが可愛いよ。自分でボールを俺のところに持ってきて落として ”これ投げろ” って遊びたがるんだけど、何度かやるといくら投げても知らん顔してるんだよね。自分の思い通りにやっているよ。犬って序列があるから、自分は家ではNo.2だと思っているんだよ。カミさんが1位で権蔵が2位。あいつのランク的には俺の上にいるみたいだから、俺の言うことはほとんど聞かない。舐め切っているよね(笑)」と、武さんは苦笑いを浮かべる。
権蔵くんが自由に走り回れるように、大きな庭も用意した武さん。しかしある夜、権蔵くんの大脱出劇があったそう。「いざ外に出られたのはいいけど、どうしていいか分からないみたいでね。そんな姿がカメラに映っていて、すぐ捕まっちゃった。庭を自由に走り回れても外に出たいのか、と思ったよ。結局は、知らないところを歩いてみたいんだろうなぁ。それも鎖なしで。その気持も分かるんだけどね。」
そんな権蔵くんに、お嫁さん候補の柴犬・福ちゃんがやってきたとのこと。家の中ではNo.2の権蔵くんも、女の子の福ちゃんにはタジタジだとか。
「福ちゃんはすごいさばけてるんだけど、権蔵は福ちゃんが苦手みたいでね。犬見知りなのか、知らないけど。権蔵の方が年上なのに、福ちゃんに上に乗っかられたり噛まれたりしていじめられてばっかりで。それ対して ”ウー" って言っているだけでさ、これはダメだなって思ってね。生まれて間もないうちに家に来たから、犬同士の付き合い方がわからないのかもしれないな。これまで何回かお見合いしているけど、ダメだねぇ。」
お見合いはうまくいかなかったけれど、武さんは権蔵くんの子どもが欲しいとのこと。でも、そんな気持ちとは裏腹に、権蔵くんには全くその気が無い様子。「今はぬいぐるみの彼女がいてそれを抱きしめていて、片付けると ”ぬいぐるみを出してくれ” ってお願いしてくるね。そのぬいぐるみの彼女で充分なのか、実際の生き物はダメみたいだねぇ。」
権蔵くんと過ごして、変わったこと。これからのこと。
「権蔵が待ってるかなぁと思うと、酒を飲まずに帰ったりして」。犬を飼い始めてから、外出しても早く帰るようになったという武さん。権蔵くんが ”大切な存在" であるからこその気持ちも。「俺も動物の番組を見て涙ぐむようになってね。権蔵も8歳になったけど、こいつは何歳まで生きるんだろう、いなくなったらまた犬を飼うのかなぁ、でも権蔵には勝てないぞ、とか考えるよ。実際に新しい犬を飼えば情がうつるとは思うけど、そういうことを考えること自体が嫌だね。でも当然、ペットを飼っていれば誰にでもお別れはくるわけだからね。だから、特別にいい暮らしはさせてないけど、嫌な思いもさせないようにしてるよ。」
北野武(きたの たけし)
1947年東京都生まれ。72年にお笑いコンビ・ツービートを結成し、現在に至るまで第一線で活躍中。また映画監督・北野武としても世界的な名声を博し、日本のみならず世界中から高い評価を受けている。2023年には最新作「首」を公開。U-NEXTにて先行レンタル配信中。
北野武(きたの たけし)
1947年東京都生まれ。72年にお笑いコンビ・ツービートを結成し、現在に至るまで第一線で活躍中。また映画監督・北野武としても世界的な名声を博し、日本のみならず世界中から高い評価を受けている。2023年には最新作「首」を公開。U-NEXTにて先行レンタル配信中。
公式サイト https://takeshi-kitano.jp/