連載『犬とわたし』の番外編では、“犬”をテーマとした多彩なコンテンツをお届けしていきます。今回は、『犬と映画』。
ゲストは、ヒップホップ界のレジェンド、宇多丸さん(RHYMESTER)。コワモテながらも実はシャイな文化系男子であることは、TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」をお聴きの方はご存知のはず。ラジオ内のコーナー、「週刊映画時評ムービーウォッチメン」では、自腹で映画を観て、愛と知識に満ちた評論を毎週届けてくれる、おそらく日本一映画を愛するラッパー。そんな彼が選んだ、とっておきの犬映画4作とは?
Photo: Kyohei Hattori /Interview: Maki Kakimoto (Lita)
#01
マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと
新婚夫妻のジョンとジェニーは子育ての予行演習としてラブラドール・レトリーバーの子犬を飼い始める。その名もマーリー。「世界一おバカな犬」と呼ばれるほどの想像を超えるやんちゃな振る舞いに、振り回される二人。散々な目に遭いながらも、マーリーは二人にとって、愛というものを教えてくれるかけがえのない存在となっていく。監督は「プラダを着た悪魔」のデビッド・フランケル。主演はオーウェン・ウィルソン、ジェニファー・アニストン。
『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』
DVD<特別編>発売中
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
デジタル配信中(購入/レンタル)
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
犬が伴侶としてずっといる暮らしが そのまま描かれている
『マーリー』は犬関係の映画でおすすめを聞かれた時、まず最初に推す1本。ジョン・グローガンがマーリーという犬を亡くした後に新聞に掲載した追悼コラムから生まれた映画です。ジャーナリストを目指す主人公が結婚して犬を飼うのですが、それがマーリー。これがいわゆるバカ犬で、熟練のトレーナーがさじを投げるほど本当に言うことを全く聞かない。そんなマーリーと夫婦それぞれの人生が、マーリーが亡くなるまで並行して描かれているのですが、特別なことが起こるわけでもなく、普通の人生にずっと寄り添って描かれている映画なんです。もちろん最後にマーリーが亡くなるところで泣いちゃったりはするのですが、そこで泣かせる映画って感じとはまた違う。犬が伴侶としてずっといる暮らし、君とずっと一緒にいたねという人生、そういうことがそのまま描かれています。
人生はままならないと誰もが感じる時がある マーリーは人生全体の象徴
当たり前だけれど登場人物それぞれの人生にはいい時も暗い時もあるんです。我々の人生もそういうものじゃないですか。なりたい自分と望まれる自分が違ったり。例えば僕は一応音楽で食えるようにはなっているけれど、ラジオをずっと生業として続けているということは、気づいたらこうなっていたことであって。この映画の夫婦も、なりたい自分と現実で葛藤したり虚しさを感じたりする時もある。でも誰もが思っていたのとは違うという部分は抱えているだろうし、人生はままならないものだと感じながらも、1つの生を肯定して生きているものですよね。マーリーのどうしようもないバカ犬っぷりは、そういう人生全体の象徴。ままならない、思ったとおりじゃない。だけどそれは個性で、唯一の存在なんだよねという。とはいえ、もうあんな破茶滅茶なマーリー、僕は絶対無理って思っちゃいますけど(笑) ささやかなクライマックス部分で、マーリーのリードを外してあげて、海でわーっと遊ばせるシーンがすごく好きなんです。色々ままならないこともあるけれど、せめて今この時だけは思いきり自由を味わいなよ、みたいな。人生もずっといいわけじゃないけれど、生きててよかったみたいな瞬間があるよねって思います。まぁここでもマーリーがしっかりやらかすのですが(笑)。観直すたびに、なんかいいなって思う部分があります。パッと見のイメージで舐められがちな映画ではありますが、人生について感じられる大人な映画だと思います。ぜひ皆さんの人生に当てはめて観てみてください。
#02
僕のワンダフル・ライフ
主人公であるゴールデン・レトリーバー「ベイリー」は、イーサンの親友。一緒に成長していき、ベイリーが亡くなった後、別の犬として何度も生まれ変わりながら、それぞれの飼い主の人生に寄り添い、共に過ごし、それぞれ違った犬生を送る。監督は「HACHI 約束の犬」「ギルバート・グレイプ」など犬や家族をテーマとした心温まる作品を得意とする、ラッセ・ハルストレム。ゴールデン・レトリーバーの声は、俳優ジョシュ・ギャッド。
僕のワンダフル・ライフ
Blu-ray: 2,075 円/DVD: 1,572 円 (税込み)
発売・販売元: 株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C) 2016 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
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2つめの犬生パートを短編映画のように 繰り返し見て、泣きすぎるくらい泣いちゃいます
これは分かりやすく、犬エクスプロイテーション映画と言いますか、犬で泣かす気満々な感じです。主人公の犬が4回転生するのですが、転生するたびに時代が変わるから映画のタッチも変わるんですよ。僕は2つめの犬生の警察犬に生まれ変わるパートがすごく好き。ジャーマン・シェパードのエリーとして生まれ変わり、その相棒となる警察官カルロスをジョン・オーティスが演じているのですが、心を閉ざしていた彼がだんだん解けていく描写をワンちゃんの視点から描いています。最初はエリーに対してあっちにいけ!とか言っていたのに、一緒に寝るようになっていったり。それは3分ほどの短い描写なんですが、もうそれだけで本当に孤独な人にこそやっぱり犬が側にいるといいよねと思わせられるんです。僕は70年代ポリスアクションみたいなものがすごく好きだからそのムードもいいんですよね。エリーは4回転生してまた最初の飼い主の元で人生を過ごすのですが、そこじゃなくてカルロスの元にいってあげてくれよって、もう泣きすぎるくらい泣いちゃう。この2つめの犬生パートは短編映画として繰り返し観ています。
(C) 2016 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
犬は最強のバディであるということが 転生のたびに伝わってくる1本
4回転生するというオカルト的というかツッコミどころ満載ではありますが、でもやっぱりいいんですよね。昔飼っていた犬と似てる?生まれ変わり?と気づくシーンがあるんです。まだ教えていない芸を昔飼っていた犬みたいにできてしまうことで、もしかして?と気づく。台詞ではなく、全てアクションで見せてるんですよね。そういう表現がラッセ・ハルストレム監督はやはり上手い。犬は最強のバディであるということが、転生のたびにさまざまなシチュエーションから伝わってくる1本です。カルロスパートを何度も観ているので、結局僕もこの映画を相当好きなんだと思います。
#03
ボルト
主人公は白い犬のボルト。テレビドラマに出演していて、スーパーパワーを持ったヒーロ犬として大活躍。もちろんその能力は撮影用の特殊効果だけれど、ボルト自身も自分はスーパーパワーを持っていると思い込んでいる。飼い主であり共演者でもあるペニーが危険な目にあったと勘違いしたボルトは、彼女を救うためスタジオを飛び出すが、ニューヨークですっかり迷子に。旅の途中の様々な出会いによって現実の世界を知り、自分がスーパーパワーを持ったヒーロー犬ではないと知る。その後ボルトは…。
『ボルト』
ディズニープラスで配信中
Ⓒ 2026 Disney
犬を飼ったことのない僕でも、 ワンちゃんってこういうものだよねと思えてしまう
ディズニーがピクサーを買収して、ジョン・ラセターをクリエイティブディレクターに据えて制作を依頼したことで、途中まで作っていたチームが外れて、最初から作り直した作品です。その時に途中で外れたチームは、のちにドリームワークスで『ヒックとドラゴン』という大傑作を制作するのですが。そういう経緯があって、あの頃のピクサー無双状態の勢いが詰まった1本。ワンちゃんらしさをとことん追求している、本当によくできた映画。ひょんなことから世界に放り出され、真実を知ってしまい、その上で飼い主のために今度は犬として頑張ろうとする話なのですが、言ってしまえば『トイ・ストーリー』のバズを犬に置き換えたような話なんですよね。旅の途中で色々なことが起きる時など、犬を飼ったことのない僕でも、たしかにワンちゃんってこういうもので、こう考えるのかもとすんなり思えてしまう。ボルトが自分はスーパー・ドッグではないと気付いて最初はすごく絶望するのですが、それでも犬っていいねとなる。あの感じもすごくいいんですよね。それにやっぱり犬は人とセットが幸せなんですよね。人も大昔から犬を必要としてきていて、そういった両面があんなに楽しい子どもでも伝わるタッチで描かれていて、もうよく出来すぎだろという感じです。
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細部にわたって「なんておしゃれなんだ! 格好良すぎる!」というシーンがとても多い1本
旅の途中に鳩とも出会うのですが、鳩の覚えてなさみたいなものがラストですごく効いてくるんです。ネタバレしないよう端折りますが、鳩は「あんな犬見たこともない」と言って去ってゆく。「なんておしゃれなんだ!格好良すぎる!」という感じ。ボルトという犬だけじゃなく、動物それぞれのキャラクターが立っていて、それぞれの動物性が生かされているんです。この映画は2008年に公開されているのですが、当時3DCGアニメーションはまだまだ発展期で、特にリアルな人間や生き物をガッツリ描くのにはまだ高い技術的ハードルがあったはずだけども、今回観直してみてもやっぱり、めちゃくちゃよく出来ていると思いました。
#04
エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語
ベストセラー小説『The Art of Racing in the Rain』(エンゾ レーサーになりたかった犬とある家族の物語)を原作とした1本。2019年に公開され、主人公であるゴールデン・レトリバーのエンツォの視点で語られている。「いつか人間に生まれ変わる」と信じているエンツォ。飼い主は、マイロ・ビンティミリア演じるカーレーサーのデニー。彼は結婚して娘を授かるが、さまざまな困難が襲い、エンツォは家族を支え続ける。エンツォの視点を通して人間の人生と困難が描かれている家族や夫婦愛の物語。「ロッキー・ザ・ファイナル」のマイロ・ビンティミリアと「マンマ・ミーア!」シリーズのアマンダ・セイフライドがスウィフト夫妻を演じる。監督は「マリリン 7日間の恋」のサイモン・カーティス。
『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』
ディズニープラス スターで配信中
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エンツォとデニーがフェラーリに乗って ドライブするシーンなんてもう素敵すぎて最高
「構造としては『マーリー』に近い映画ですね。年老いるまで家族のそばにいる犬生。途中、主人公がこれはもうちょっとダメなんじゃないかというくらいに追い込まれ、エンツォもやばいことに…。これは犬映画というより単純に映画として面白いんです。メインヴィジュアルになっている、エンツォとデニーがフェラーリに乗ってドライブするシーンなんてもう素敵すぎて最高。あのシーンでエンツォが顔をデニーの肩にちょこんと乗せているのは、ワンちゃんのアドリブらしいです。原作となった本がベストセラーで映画化されたのですが、アメリカでは犬ベストセラー本を映画化という一定サイクルがあるんですよね。『ワンダフルライフ』もそうですし。アメリカ人って本当に犬が大好きですよね」
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僕はどうでもいい雑種みたいな方が好きで ちょっと間抜けな感じに可愛さを感じます
「こういった犬と家族が一生を共にするという映画を見ると、素直にぐっときます。『マーリー』を観ると、自分には無理かも…って自信がなくなりますけど(笑) 犬が好きなんですが飼ったことはないので、犬映画を観ることしか出来ていません。いつかは飼いたいと思いつつも、子どもの頃から犬に触れてきているわけではないから、やっぱり自信はなくて。幼い頃にアメリカに住む母の友人のお家に夏休みに家族で遊びに行った時、そこにやっぱりワンちゃんがいたんです。名前は忘れもしないジェフ、結構でかめのゴールデンレトリバーだったと思います。夏休み中一緒に遊んでいたんだけど、僕が調子に乗ってジェフの上に馬乗りになったら思い切り振り落とされたんです。それで大きな犬がちょっと怖くなってしまって。けれど大学生になってもう一度そのお家を訪ねた時、まだジェフが生きていたのですが、僕には吠えないんです。そのお家の女性から「ジェフは覚えているんだね」と言われて、それにはグッときちゃいましたね。僕がもしも犬を飼うのなら、どうでもいい雑種みたいな方が好きですし、優等生な感じよりちょっと間抜けな感じに可愛さを感じます。そうするとマーリー的な犬の可能性が高くなってしまう…(笑)」
宇多丸(RHYMESTER/ラッパー・ラジオパーソナリティ)
東京都出身。ヒップホップ・グループ「RHYMESTER」のラッパー。日本のヒップホップ興隆の立役者であり、シーンを牽引する存在として活躍する一方、TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』のパーソナリティとして、映画や音楽をはじめとする幅広いカルチャーの魅力を発信し続けている。2025年には映画文化への貢献が評価され、「第18回淀川長治賞」を受賞。近作にRHYMESTERアルバム『Open the Window』(2023)、同ツアー映像作品『at 武道館』(2024)ほか。
「もっと映画を観たくなる」「知らなかった作品に出会える」。そんな体験を届けてくれるのが、宇多丸さんがパーソナリティを務めるTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』。映画をはじめ、音楽、本、アートなど幅広いカルチャーを独自の視点で掘り下げる、カルチャー好き必聴の番組。
TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』 月曜~木曜 20:00〜22:00 生放送https://www.tbsradio.jp/a6j/
RHYMESTER OFFICIAL HPhttps://www.rhymester.jp/
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