犬のかたちをしているもの/高瀬隼子(集英社文庫)
主人公・間橋薫(30歳)は、過去の卵巣手術の影響もあり、恋人と一定期間付き合うとセックスを拒否するようになる女性。現在の恋人・郁也とは、そうした事情を理解し合ったうえで、セックスレスのまま半同棲生活を続けている。
ある日そこに「ミナシロ」という女性が現れ、郁也の子どもができたけれど育てる気はないからあなたたちで育ててくれませんかと提案する。
「愛」「性」「出産」「家族」が本当に結びついているものなのかを、薫の視点から静かに掘り下げていく。
「おいしいごはんが食べられますように」という作品で芥川賞を受賞した高瀬隼子さんが描く、子どもをつくることへの逡巡をめぐる話です。その中で、「犬より子どもを可愛いと思えるのだろうか」という主人公の独白があり、その気持ちはなんとなく分かるなぁと印象的でした。私は子どもがいないのですが、実家で飼っていた犬が可愛かったんです。それだけでなく、友達が飼っている犬や、SNSに出てくる全然知らない犬ですら、本当に可愛い、と感じていて。こんなにも可愛いと感じているのに、人間に対してそれを超える気持ちなんてなるのかなぁと思ってしまいます。それに、言葉を持たない可愛い生き物の方が、言葉を持っている人間より可愛いんじゃないかな?とも思うんです。言葉を持たないことで、人間ほど知りたいという感覚も湧かないですし、だからこそ愛情を持てる気がして。思っていることとやっていることが違ったり、嘘をついたりすることもないでしょうし。もしも子どもがいたら、また違う感覚で読めそうな本だと思うのですが、今子どもがいない私にとっても共感できる部分が多かった作品です。